海事産業では、環境規制を満たすためのエネルギー効率の向上と排出量の削減に対する需要が年々高まり続けています。そのため、従来のプロペラ設計では十分に需要を満たすことができないため、チップレーキプロペラなどのエネルギー効率を向上させて環境への影響を最小限に抑えることができる非従来型の設計が重要となります。
これまでこの分野では、数値流体力学(CFD)を活用した設計空間の探索とプロペラ形状の最適化による性能・効率の向上によって、プロペラ設計に革命をもたらしてきました。さらに近年では、サロゲートモデルが大幅な進化を遂げており、CFD解析結果を活用してプロペラ性能を迅速に把握することで、複雑な設計課題に対するソリューションを瞬時に獲得することができます。この合理的なアプローチは、性能・効率が向上するだけではなく、より幅広い設計案の検討が容易になり、革新的で最適なソリューションを実現します。
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| チップレーキプロペラ(CAESES) | プロペラ先端部(CAESES) |
このプロジェクトに組み込まれた参考データは、推進関連において広く活用されているワーゲニンゲンB型プロペラに基づきます。B型プロペラの注目すべき利点の1つは、実験結果に基づいた多項式回帰の実装により、プロペラ単独特性を迅速に計算できる点です[1]。さらに、予備設計段階における従来の固定ピッチプロペラの基準として広く認識されているブリルダイアグラムが、このプロジェクトのためにCAESESでデジタル化されています[2]。

ブリルダイアグラム(CAESES)
非従来型プロペラのパラメトリックモデル(PMUP:Parametric Model for Unconventional Propellers)は、CAESESでセットアップされ、パラメータ化が行われました。これにより、既存のプロペラ設計を修正して、チップレーキや高スキュー角などの形状特徴を追加することができます。設計変数として使用されるピッチ、コード、スキュー、レーキなどには、対応する半径方向の分布関数が定義されており、これらを調整することで、PMUPは従来設計を非従来型の型破りなプロペラ設計に変換します。特にこのプロジェクトで作成された、modRakeやmodSkewなどの設計変数は、非従来型プロペラのモデル生成に不可欠であり、プロペラ先端部の緻密な制御を可能にします。

各設計変数に組み込まれた半径分布関数
| 設計変数 | 範囲 | 説明 |
| modPitchHub | [-0.2, 0] | ハブのピッチを制御 |
| modPitchTip | [-0.2, 0] | 先端部のピッチを制御 |
| modChord | [-0.1, 0.1] | 最大コードの位置を移動 |
| scaleChord | [0.9, 1.1] | 全体コードサイズをスケール |
| modRake | [-0.15, 0.15] | 先端部のレーキを制御 |
| rakeAngle | [-20, 20] | レーキ角を定義 |
| modSkew | [0, 0.15] | 先端部のスキューを制御 |
| splitRadius | [0.7, 0.9] | modRakeが有効になる位置を定義 |
パラメトリックモデルの各設計変数の詳細
CAESESでモデル化されたプロペラのブレードジオメトリは、NURBSサーフェスとなっており、解析の入力データとしてパネルメッシュに変換されます。メッシュモデルは、感度分析によって、コード幅に30、スパン幅に20のパネルが含まれることになりました。ブレードのリーディングエッジおよび先端部には、細分化されたパネルが割り当てられ、正確な解析のためのクッタ条件を満たすために、トレーリングエッジが追加されています。以下の図に示すように、ハブジオメトリはモデリングプロセスには含まれていません。
プロペラブレードの流れ解析には、ハンブルク工科大学(ドイツ)の翼素・運動量理論(BEM)コードであるpanMAREを使用しています[3]。また、プロペラの性能評価には、プロペラ単独性能試験に基づく解析が行われ、ヒューリスティックモデルによる流れの摩擦効果が考慮されました。キャビテーションの評価については、キャビティの面積と体積が計算され、プロペラ設計の最適化に関する洞察を取得します。
panMARE(panel Code Maritime Application and Research):海洋アプリケーションにおける任意の流れをシミュレートすることを目的としたプログラム
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| 圧力分布(panMARE) | ブレード先端部のキャビティ厚さ分布(panMARE) |
最適化アルゴリズム
ステップ1:Sobolアルゴリズム(DoE)による、準ランダムシーケンスを使用した均一分散と設計空間の探索。
ステップ2:T-Searchアルゴリズムによる、単一目的最適化。通常、Sobolによる最良な設計候補は、T-Searchによる最適化のベースラインとして有効です。
ステップ3:応答曲面法(RSM)による、クリギング法を使用したサロゲートの構築。最適化プロセスで使用される設計変数の少なくとも5倍のサンプル数が要件であり、これによってシミュレーションなしで最適解を見つけることができます。
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| Sobol - 実験計画法 | Tsearch - 単一目的最適化 | 応答曲面モデル |
入力パラメータ
メインのゴールは、商船に適した効率的なプロペラ設計を開発することです。プロペラの直径や流入速度などの主要なパラメータは、商業的な適用に合わせて調整された範囲内で選択され、これらは性能特性に大きな影響を与えます。そして、無次元数を利用することで、さまざまな動作条件にわたっての設計柔軟性が向上します。また、5枚のプロペラブレードに統一することは、現代の設計基準に適応しています。Sobolは設計空間を効率的に探索し、入力パラメータの感度とプロペラ性能への影響を分析します。
| 入力 | 範囲 | 単位 | 説明 |
| D | [6, 8] | meters | プロペラの直径 |
| VA | [18, 22] | knots | 流入速度 |
| J | [0.45, 1.25] | 前進係数 | |
| kTreq | [0.05, 0.2] | 要求スラスト係数 | |
| Z | 5 | ブレード数 |
最適化フレームワークの主要入力パラメータ
最適化プロセス
最適化はCAESESの最適化エンジンにて実行され、「プロペラ効率最大化」、「キャビテーション最小化」、および「要求スラストを満たすこと」を目的とした2段階のアプローチが採用されました。T-Searchによる最適化は2段階アプローチにおける両フェーズで使用されています。
第1フェーズ:B型プロペラの設定に合せた入力パラメータによる最適化
B型プロペラの多項式回帰により単独性能を評価し、ブリルダイアグラムを利用してキャビテーションを推定することで、CFD解析を行う必要がありません。
第2フェーズ:CAESESパラメトリックモデルとpanMAREによる従来型・非従来型の最適化
このアプローチにより、制御可能な設計空間次元、形状の多様性、および適切な制約を保証します。第2フェーズのベースラインは、第1フェーズのB型プロペラの最適候補が設定されます。
| 第1フェーズ | 第2フェーズ | |
| 名称 | B型プロペラセットアップ | 非従来型プロペラセットアップ |
| アルゴリズム | T-search | T-search |
| 初期値 |
| 第1フェーズの最適設計 |
| 単独性能 | 多項式回帰 | panMARE |
| キャビテーション | ブリルダイアグラム | panMARE |
| 調査目的 | P/D, AE/AO | 非従来型プロペラモデルの設計変数 |
| 目的関数 | プロペラ効率(η0)最大化 | プロペラ効率(η0)最大化 |
| 制約条件 | c=Burrill(σ0.7R,τc)<30% Treq≤Tpan≤1.3Treq | Acav<0.1AE Treq≤Tpan≤1.3Treq |
各フェーズの詳細情報
CAESESとpanMAREによる最適化
模範的な構成として、直径7[m]、流入速度20[knots]、前進係数0.85、要求スラスト係数0.125、ブレード5枚の条件にて最適化フェーズを実証しました。第2フェーズの最適化の収束履歴を下の図に示します。
T-Searchの最適化計算における最初のケースは、第1フェーズで獲得した最適なB型プロペラの結果になります。その後の最適化計算は、目標となるスラスト・キャビテーション・効率を備えたチップレーキプロペラを見つけるために進行していきます。
・赤色の三角形:制約条件に違反している設計候補
・緑色の丸:実現可能な設計候補
・青色の丸:最高効率を備えた最適なチップレーキプロペラのバリエーション
効率が過大評価された候補は、要求するスラストよりも高いスラスト値となり、効率が過小評価された候補では要求よりも低いスラスト値となります。

CAESESとpanMAREによるT-Search最適化
サロゲートモデルの構築
非従来型プロペラのサロゲートモデル(SMUP:Surrogate Model for Unconventional Propellers)構築のワークフローは、4つの主要入力データから始まり、非従来型プロペラ設計をもたらす2段階の最適化プロセスの使用を採用しています。これにより、形状の設計変数値を詳細に表すデータと、キャビテーション予測と合わせたプロペラ単独性能の2つの結果が得られます。その次に、この最適化されたデータセットは、トレーニングデータとしてサロゲートモデルに受け渡されます。最終的な目標は、サロゲートモデルを使用して、大規模なシミュレーション段階を省略し、4つの主要入力のみから最適化の結果と最適なプロペラ形状を迅速かつ正確に予測できるようにすることです。

非従来型プロペラのサロゲートモデル構築フロー
Sobolは、サロゲートモデルの初期トレーニングデータセットとして機能する24個の入力データセットを効率的に生成しました。下記の図(上から1番目)は、設計空間がどのように効果的な検討がされたかを示しています。B型プロペラベースの最適化により、スラストとキャビテーションの制限に重点を置き、プロペラの形状は拡張面積比とピッチ比によって決定され、最も効率的なプロペラが特定されます 。B型プロペラに基づく最適化は、スラストとキャビテーションの制限に焦点を当てながら、拡大面積比とピッチ比によって決定されるプロペラジオメトリによって(上から2番目)、最も効率的なプロペラを特定します。
シミュレーションベースの最適化フェーズの後、チップレーキ設計の性能向上は明らかであり(上から3番目)、効率が平均約3.3%向上しました。また、設計変数(上から4番目)は、バックワードに対する傾向を示しており、カッペルプロペラのようなチップレーキプロペラは低いコード値が効果的であることが示されています。ただし、B型プロペラはすでに良好なスキューカーブを持っているため、スキューカーブを変更することはあまり好ましくないようです。

初期サロゲートモデルの設計候補群の主要入力パラメータ(上)と拡張面積比およびピッチ比(下)

初期サロゲートモデル設計候補群のプロペラ効率と設計変数
チップレーキプロペラのパラメータ化と2段階最適化アプローチにより、効率性能が向上した非従来型の設計が実現しました。また、この合理的なワークフローは、参考情報からの洞察とCAESES内の解析データをシームレスに統合することができます。これまでの最適化計算によるトレーニングデータセットに基づいて生成されたサロゲートモデルは効果的に機能し、特にバックレーキおよびチップレーキプロペラのような、非従来型設計の最適な結果における新たなパターンの特定を容易にします。
ただし、サロゲートモデルの開発では、特に外挿において課題が発生したことに言及する必要があります。予測されたCFD解析と最適化の結果間の不一致を解決するには、データノイズを最小限に抑えることが重要です。これには、反復的な試行錯誤を通じてパラメトリックモデルを改良する必要がありますが、時間がかかる場合があります。今後のさらなる計画には、B型プロペラプロファイルだけでなく、NACA66といった他のプロファイルの組み込みや、panMAREを使用した船体後流流れ場データの統合、ブレード数が3枚、4枚などの対応などが含まれています。最終的な目標は、初期段階における船舶用プロペラ設計のためのロバストなツールを確立することです。
このプロジェクトは、ドイツ連邦議会の命令(Förderkennzeichen 03SX516C)に基づき、ドイツ連邦共和国、ドイツ連邦経済・エネルギー省が資金提供した研究開発プロジェクトDeffProFormの一環として実施されました。
[1] Barnitsas, Michael M., D. Ray, and P. Kinley. KT, KQ and efficiency curves for the Wageningen B-series propellers. University of Michigan, 1981.
[2] Burrill, L. C., and A. Emerson. “Propeller cavitation: Further tests on 16in. propeller models in the King’s College cavitation tunnel.” International Shipbuilding Progress 10.104 (1963): 119-131.
[3] panMARE code. Availiable via: https://www.tuhh.de/panmare/home