グローブバルブの形状最適化

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CAESES®は、これまで様々な種類のバルブにおいて最適化計算を行っており、あらゆる企業と協力してプロジェクトを実施してきました。

そこで今回は新たに行われたプロジェクトのひとつである、グローブバルブの形状最適化』を紹介していきます。

このプロジェクトは、ドイツのバルブメーカーであり、無菌バルブの世界的リーダーであるGEMÜ Gebr. Müller Apparatebauと、エンジニアリングシミュレーションの大手であるSimScaleの協力を受けて実施されました。


今回のプロジェクトの目的は2つとなります:

1.グローブバルブの改善と性能調査

2.クラウドベースのCFDソルバーであるSimScaleとCAESES®の接続


最適化の目的と目標

今回の最適化対象は、空気圧式グローブバルブ「GEMÜ Globe Valve 534」です。

金属製の本体とプラスチック製のピストンアクチュエータを持ち、シャットオフバルブやコントロールバルブとして使用可能であることが特徴で、水処理、機械工学・加工、発電、環境工学などの産業用途で多く使用されています。



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図1:計算対象となるGEMÜ Globe Valve 534


対象となるグローブバルブは、流れ方向に対して急激な変化を与えて、バルブ内の圧力損失を減らすことが、さらなる性能向上につながると考えられました。

これまでの最適化研究においては、形状のロバスト性に関する問題があったため、より大きな設計空間の探索ができませんでした。

このような理由により、柔軟でロバストな形状を作成することができるCAESES®が採用されることとなったのです。


プロジェクトの具体的な目標は、バルブにかかる圧力損失が1[bar]のときにバルブを通過する流量を定量化すること、つまり流量係数[Kv]を最大化することです。 


バルブ形状の設定

最適化を行うバルブモデルをパラメトリックモデルにするため、STEP形式の形状データをCAESESに読み込むところから始まりました。

具体的には、読み込んだバルブ形状の内部容積をモデリング対象としています。


この流体容積は、入口通路と出口通路で構成されており、これらは弁体が閉じるシートで仕切られています。

各通路の形状は、短輪郭線と長輪郭線の2つのラインでモデル化していて、短輪郭線は2つのパラメータ、長輪郭線は5つのパラメータで制御することができます。


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図2: 短輪郭線(緑)と長輪郭線(青)


断面は、短輪郭線と長輪郭線のそれぞれに点を作成することによって、楕円形で接続されています。

縦軸の長さは2点の距離の結果であり、横軸の長さは、通路の経路に沿った関数として規定されたアスペクト比パラメータによって縦軸に対して定義されています。 

この関数の形状、したがって通路の幅分布は、入口と出口の通路ごとに2つのパラメーター(図2:パラメーター15〜18)によって制御されます。

さらに、2つのパラメータによって、長輪郭線に沿った断面の掃引速度の変化が可能になります(図2:パラメータ19、20)。


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図3:輪郭線に沿った断面スイープ


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図4:断面アスペクト比


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図5:掃引速度パラメータ


分布関数により形状定義をした流路部分を作成した後は、シート、プラグ、ボンネットなどの不足パーツを補い、パラメトリックモデルが完成しました。

また、CFD解析を行う際に入口出口境界の影響を受けないようにするため、入口出口は形状を延長することになりました。


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 図6:CFD解析モデル


自動CFD解析システムの構築

今回のプロジェクトでのCAESES®とCFDソフトウェアの接続は、通常とは異なるものでした。

CAESES®はデスクトップアプリケーションであるため、ユーザーは基本的にローカルかHPCクラスターで実行されるオンプレミスなCFDソルバーと接続します。

しかし、今回使用するSimScaleはクラウド内にプラットフォームがあるため、ローカルマシンとクラウド環境の間の直接接続を行う必要がありました。 

この問題を解決したのは、SimScaleに新しく提供されたAPIです。

これによって、サードパーティのアプリケーションがブラウザ上で直接操作しなくても、解析ケースを設定からジョブを実行、結果取得が可能になりました。


SimScaleのAPIとの通信で、CADデータをアップロードし、SimScaleに読み込み、解析ケースの設定、実行、結果ファイルを書き込み、ローカルマシンへのデータ共有などの必要なコマンドは、Pythonスクリプトを介して行われました。


CAESESでは、SimScaleとの接続は、ソフトウェアコネクタインターフェイスにより行われます。

CAESESとの接続に必要となるファイルは、形状データのSTEP形式出力、SimScale接続用のPythonスクリプト、実行用シェルスクリプトです。

流量係数を含む結果出力CSVファイルは、計算後にCAESES®読み込まれて、最適化プロセスで使用されることになります。


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図7:CAESES®のソフトウェア接続画面


CFDとの接続テストとして、バルブの完全閉鎖状態から完全開放状態までの各プラグ位置による流量係数を計算し、グラフを作成する一連の作業を自動実行することができました。


最適化プロセスと結果

最適化プロセスはいくつかステップによる段階的に進められました。

ステップ1は、12個の輪郭線に関するパラメータとアスペクト比の分布に関する4個のパラメータを設計変数として、150の設計デザインによるDoE(実験計画法)です。

このDoEから取得したデータベースを利用して、ステップ2で使用する応答曲面を作成しました。

この応答曲面を活用した最適化を行う場合、CFD解析によって計算された他の50の設計デザインが、応答曲面によって予測されます。


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図8:各設計デザイン


ステップ1の結果として、流量係数は6.5%向上しました。

最適候補解として得られた形状は、入口通路と出口通路の両方がより膨らんだ形状となりました。

この形状の場合だと、流体がシートとプラグの間の隙間を通過するときに、スムーズに流れるためのスペースが多くなります。


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図9:最適化ステップ1の結果


ステップ1の結果をもとにした設計変数の感度調査により、ステップ2では16個のうち8個のパラメータが最適化計算に使用されました。

さらに、2個の輪郭線パラメータ(13と14)、2個の掃引速度パラメータ(19と20)が設計変数としました。


ステップ2では、応答曲面を用いた最適化として直接実行され、160の設計デザインによる計算が行われました。

この場合、最適化アルゴリズムは初期データベースを作成した後に、追加された計算結果を使用して、データベースを繰り返し改良していきます。

この実行の後に、2個の掃引速度パラメータのみを使用したローカル最適化の実行も行われました。


ステップ2による最終的な最適化候補解では、流量係数がさらに改善され、9%向上しました。

入口通路の形状はステップ1の最適化候補解と同様の結果となりましたが、出口通路はベース形状よりも細くなりました。


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図10:最適化ステップ2の結果


まとめ

今回のプロジェクトでは、構築した最適化システムが正常に機能し、設定された目標を達成することができました。

SimScaleは、クラウドベースのCFDソリューションとして自動最適化プロセスと接続することが可能であり、ローカルでの計算能力が乏しい環境でも最適化計算を十分に行うことができることを示しました。

最適化結果としても、目的関数である流量係数を大幅に向上させることができ、今後のバルブ設計に活かすことができます。

最適化計算やCFD解析は、マシンのスペックや計算能力によって作業効率が大きく左右されますが、今回のケースのようにクラウドベースのCFDソルバーを使用することで、不利な面をカバーすることができます。

CAESES®は、これまで以上にあらゆる条件化に柔軟に対応して、ユーザーに最適結果を提供することが可能であると分かりました。