補助人工心臓の最適化設計

この記事では、ペンシルバニア州立大学医学部の研究者が行っている、CAESES®とCONVERGEを用いた補助人工心臓の研究開発について紹介します。


この研究の目標は、溶血,フォンウィルブランド因子の分解,血栓形成などの有害事象のリスクを低減しつつ、人口心臓に使用されるポンプのサイズを縮小することです。幅広いポンプデザインを効率的に作成するため、CAESES®ではポンプの流路形状をパラメトリックモデル化しました。最適化プロセスにおける形状評価については、当初乱流エネルギー散逸率の体積平均を調査することによる、悪影響の感受性推定に重点が置かれていましたが、その後のCFD 解析から以下の評価項目が追加されました。


圧力(ポンプの流入口/流出口,半径方向および軸方向のギャップ)

・乱流エネルギー散逸率ベースの溶血モデルを使用した血漿内の遊離ヘモグロビンの生成と濃度

ひずみ速度及びひずみ速度ベースの血栓モデル

壁部分のせん断応力

・回転部にかかる半径方向および軸方向の力とトルクの変化

 

更新:ペンシルベニア州立医科大学での補助人工心臓の設計

図1:ポンプモデル


ポンプモデルのパラメトリックモデル

今回の最適化ケースの初期検討では、ブレードのみに焦点を当てていましたが、ポンプモデルのパラメトリックモデル化が行われたため、検討対象となる設計空間が大幅に拡大されました。ブレードが取り付けられているトロイダル型のローターは、高さ,幅,フィレット半径を制御できるようになり、軸方向と半径方向の周囲にある流体を制御できるモデルとしました。


図2:半径方向への変形


図3:エンドキャップ-軸方向への変形


図4:バックキャップ-軸方向への変形


また、ボリュート部分は遠心ターボ機械の性能を決定する重要なパーツのひとつです。このケースでは、ポンプから出る流れが複雑であるため、ディーン渦を形成する傾向があることを考慮する必要がありました。ディーン渦を最小化するために様々なボリュート形状を解析し、流体の経路は一般的な曲線に渦巻きを表す方程式を入力することで規定しました。ボリュートの断面についても、制御を行い、円形,ひし形,正方形と可変する制御を組み込みました。


image.png

図5:ボリュートの可変断面

 

最後に、このパラメトリックモデルのもう一つの重要な特徴は、ブレードの反対側に位置するエンドキャップです。スパイクの形状は、ボリュートへの流れを導くために導入されているもので、スパイクの設計変数は全体高さとベース幅となっています。


図6:スパイク高さの変化


図7:スパイクのベース幅の変化


H-Q(ヘッド-流量)とT-Q(トルク-流量)の評価

このケースでは、各設計変数をもとに構成された様々なポンプ形状の"ヘッド-流量","トルク-流量"の関係をプロットするための、ポンプ性能の自動シミュレーションを実施しました。CAESES®にてシミュレーションを構成し、自動シミュレーションの解析結果として、圧力,トルク,推定効率,ポンプ流出部の評価対象における乱流エネルギー散逸率,血漿内の遊離ヘモグロビンの推定値を出力しました。出力結果をもとに、2DのH-QおよびT-Q性能曲線をプロットするとともに、ポンプの効率や血漿内の遊離ヘモグロビンなどの結果を2DのH-QグラフのプロットのZ座標として重ねることで、ポンプの性能をより詳細に示す3Dプロットを作成することもできました。


VAD-HQ曲線

図8:ポンプ性能曲線


今回の補助人工心臓にまつわる数値計算の新しい研究と最適化計算から得られた結果は、現在In-vitro試験およびIn-vivo実験によるの検証が行われています。この検証結果については、共有が可能となったのときに情報をお届けします。

CAESES®はいまもあらゆる分野で活躍しており、効率の良い設計手法をサポートしております。