TCFDを用いたフランシス水車のCFDシミュレーション検証

このプロジェクトレポートは、水車メーカーであるHidroenergia社と共同実施したプロジェクトであり、TCFD®ソフトウェアを使用してフランシス水車のCFDシミュレーション検証を行いました。このプロジェクトでは既存の水車に対して試験を実施し、試験データとシミュレーションデータを比較した結果、TCFD®ソフトウェアによって得られた水車効率と電力値が非常に良く一致しました。

ベンチマークパラメータは下記の通りです:

設計流速:10m / s

ブレード数:13

回転数:600 RPM

電力値:3000 kW

物理モデル:非圧縮性

密度:996 kg / m3

要素数:500万

動粘度係数:1.0e10-3 Pa・s

流動媒体:水

乱流モデル:realizable k-epsilon

流体ドメイン数:4

入口乱流強度:5%


フランシス水車-FORTUNAII水力発電所

フランシス水車は、半径方向流れと軸流れの考え方を組み合わせた内向き方向に流れを発生させる反動水車であり、現在は最も一般的に使用されている水車形式です。このシミュレーションテストで確認したフランシス水車の実機データはブラジルのミナスジェライス州にあるFORTUNAⅡ水力発電所で計測されました。水力発電所には3つのフランシス水車があり、下の写真はユニットの設置プロセスになります

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フランシス水車は、次の主要コンポーネントで構成されています。

スパイラルケーシング:水車のランナー周りに配置されるスパイラルケーシングは、ボリュートケーシングまたはスクロールケーシングと呼ばれています。作動流体がランナーのブレード全体に流入できるように、一定の間隔で多数の開口部があります。これらの開口部で位置エネルギを圧力エネルギに変換し、流体がブレードに衝突する際に運動エネルギに変換されます。ボリュートの断面積を円周に沿って均一に減少させ、ブレードの様々な位置での流体流入速度をほぼ一定の速度とすることができます。


ガイドとステイベーン:主な機能は作動流体のポテンシャルエネルギを運動エネルギに変換し、想定される設計角度で作動流体をブレードに流入させます。

ブレード(インペラ):ブレードは水車の心臓部です。水車が行う仕事の中心であり、流体が衝突する衝撃によって生成される接線方向の力はブレードを回転させ、それによってトルクを生成します。ブレードの入口/出口のメタル角度設計には注意が必要で、これらのパラメータはブレードの機能に重要な影響を与えます。


ドラフトチューブは、ランナー出口に接続する導管であり、流体は水車からチューブを介して排出されます。その主な機能は、排出される流体の速度を低下させつつ、出口付近の運動エネルギ損失を最小限に抑えることです。水車出口でのヘッドを大きく落とさずに運用することを可能とします。


プリプロセッサ

TCFD®はstlフォーマット形状のインポートをサポートしております。通常、3D水車モデルに対して特定の前処理(クリーニング)をCADデータに対して行う必要があります。微小で流体計算に関係がないパーツを削除し、意図しない全ての穴を塞ぐ必要があります。このワークフローにおける前処理作業はCFD結果にも影響を与えるため、非常に重要となります。

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使用する計算メッシュは、snappyHexMeshアプリケーションを使用して自動化されたワークフローにて生成しました。水車の各パーツ(スパイラルケーシング、ガイドとステイベーン、インペラ、ドラフトチューブ)に対して、ブロックメッシュが初期バックグラウンドメッシュとして使用され、さらに細分化されていきます。水車モデル全体は、長さが6237mm、高さが3364mm、幅が3473mmです。基本的なメッシュサイズは、エッジが約100mmの立方体です。メッシュは徐々に壁面に向かって細分化されますが、細分化のレベルはユーザが簡単に変更可能です。また壁面近傍にはインフレーションレイヤーをは簡単に配置できます。シミュレーションに使用される最終メッシュ数は、合計で4,937,072セル、主に六面体で構成されます。(各ドメインのメッシュ数はスパイラルケーシング-268,751、ガイドとステイベーン-3,256,434、インペラ-1,253,858およびドラフトチューブ-158,029となります) snappyHexMeshはTCFD®の専用メッシュツールではありません。必要に応じて他の外部メッシュをMSH、CGNS、またはOpenFOAM形式で直接TCFD®にロードできます。

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TCFDの設定

TCFD®CFDシミュレーションセットアップは、ParaViewのTCFD GUIで行います。水車はインターフェースを介して接続された4つのドメイン(コンポーネント)を有しています。インターフェースでは、Frozen RotorまたはMixing Planeを選択できます。

●シミュレーションタイプ:水車

●計算タイプ:定常計算

●物理モデル:非圧縮

●コンポーネント数:4 [-]

●メッシュメッシュサイズ:5M [セル]

●入口:流量6 [m3/s]

●出口:静圧[m2/s2]

●インペラ入口インターフェース:Mixing Plane

●インペラ出口インターフェース:Frozen Rotor

●乱流モデル:RANS(Realizable k-ε)

●壁面処理:壁関数

●入口乱流強度:5%

●回転数:600 [RPM]

●速度ケース数:1 [-]

●シミュレーションポイント:10 [-]

●流体:水

●参照圧力:1 [atm]

●参照密度:996 [kg / m3]

●動粘度:1.0×10-3 [Pa・s]


TCFD®でシミュレーションされたプロジェクトではコンポーネントグラフが表示されます。コンポーネントグラフではコンポーネントがどのように編成されているかが示されます。下図では現在の設定でのモデル内の流体の流れを簡易的に示しています。このコンポーネントグラフを使用して、モデルの接続順序が正しいかどうかを判断できます。

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CFDシミュレーションの結果その1ー流れの可視化

TCFD®には、効率、トルク、力、力の係数、流量、圧力、速度など必要な全ての評価量を自動的に算出する組み込み後処理モジュールが含まれています。これら全ての評価量はシミュレーションの実行中に算出され、重要なデータはすべてHTMLレポートにまとめられます。HTMLレポートはシミュレーション中にいつでも更新できます。すべてのシミュレーションデータは、更なる評価のため.csvファイルでも出力されます。更なる可視化はParaViewで実行できます。 ParaViewは非常に強力なオープンソースのCFD後処理ツールであり、様々な可視化とデータ操作を実施することが出来ます。

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CFDシミュレーションの結果その2ー水車軸動力比較

水車シミュレーションの非常に重要な結果の1つが、軸トルクです。これは流体によるインペラ表面圧力とインペラ表面に作用する粘性力(摩擦力)の結果です。水車出力は、単純な式P = T・ωから計算されます。ここでPは出力[W]、Tはトルク[N.m]、ωは角速度[rad/s]です。下図はCFDシミュレーションから得られた水車出力と、実験から得られた水車出力との比較を示しています。 10個のガイドベーン開口部に対応する10個の流量ケースを比較しました。

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CFDシミュレーションの結果その3ータービン効率比較

水車におけるもう1つの重要な結果は水車効率です。水車効率は、流体により得られたエネルギとヘッドのポテンシャルエネルギの比率であり、次式のように表すことができます。η= P /(m・g・ϱ・h)ここでηは効率[-]、Pは出力[W]、mは流量[m3/s]、gは重力加速度[m/s2]、ϱは密度[kg/m3]、hは正味のヘッドであり、水位の差となります。(シミュレーション結果で得られたヘッド、入口圧力と出口圧力との間の全圧差から) 全てシミュレーションモードで47.91 mの基準ヘッドを考慮し、下図ではCFDシミュレーションからの水車効率と、実験から得られた水車効率との比較を示しています。 10個のガイドベーン開口部に対応する10個の流量ケースを比較しました。

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CFDシミュレーションの結果その4ー子午面平均流れ

水車シミュレーション結果の評価で重要なポイントは子午面上での可視化になります。この可視化により例えば、全圧が水車の流路でどのように消費されるかについての貴重な情報を得ることが出来ます。ParaView用に作成された特別なTCFD変数"Meridional Average"を用いることでこのスライスされた子午面に全てのフィールドデータ平均値が表示されます。Meridional Average変数はインペラやその他の障害物を無視して表示されるため、コンパクトな流路の形状になります。

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CFDシミュレーションの結果その5ーB2Bビュー

重要な水車シミュレーション結果の評価はB2B評価になります。B2Bではハブとシュラウド間で固定されたスパン方向相対位置におけるブレード間の流れ場の特性を把握するための可視化になります。TCFD®では、B2Bを2つのステップで生成できます。最初に回転領域のメッシュを正規化された長方形ブロック(1x1x2Pi)に変換(アンラップ)します。次に変換されたブロックをハブとシュラウド間のある位置でスライスします。一般的に使用される変数は、例えばインペラ周りの流線や相対速度になります。ユーザーは、流体がどの程度スムーズに流れ、インペラ前縁にどの程度滑らかに流入するかを確認できます。下図はLIC(ラインたたみ込み積分)の形式でB2B平面に投影された流線を示し、相対速度コンタを表示しています。流量5.48 [m3/s]に対応するケースでスパン方向相対高さは0.99、0.8、0.6、および0.4の4つのB2B平面を表示しています。

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結論

TCFD®を使用した実機フランシス水車の複雑なCFD分析を実行し、TCFD®シミュレーション予測、出力と効率は試験データと非常に良く一致することが示されています。

TCFD®は、設計と検証プロセスのすべての段階で、水車の包括的なCFDシミュレーション分析に非常に効果的なツールであることを示しました。