TCAEを用いた遠心ファンの設計およびシミュレーション

TCAEを用いた遠心ファンシミュレーション

ベンチマークパラメータ

ファン回転数:30 [rpm]                         インペラ材質:スチール

流れモデル:非圧縮性                            材料密度:7800 kg/m3]

CFDメッシュサイズ:50万要素数           材料均質化モデル:等方性

媒体:空気                                            ヤング率:2.1E11 [Pa]

動粘度:1.8×10 -5 [Pa・s]                     ポアソン比:0.3

空気密度:1.2 [kg/m3]                          CFD解析タイプ:ファン

入口乱流強度:5 [%]                             FEAメッシュ数:84,000要素数

乱流モデル:k-omega SST                     CPU時間:1.5コア時間/ケース


遠心ファン - 概要

 この事例は遠心ファンの設計を流体、構造の両方の観点から解析を実施、検討を行った事例となります。両解析タイプに用いたソフトウェアはオープンソースベースであるTCAE®を使用しました。対象となる遠心ファンは実在のファンを修正したモデルであり、流体、構造両者の結果と実測値との比較を行っています。設計時の評価項目は遠心ファンの基本的特性である効率、phi-psi、トルク、パワー、昇圧値、応力、変位などを総合的に評価することとします。


遠心ファン - 設計

 解析実施のため、用いた形状データはSTLサーフェス形状とし、完全に閉じたサーフェスとします。特にサイズが小さなメッシュを用いる流体解析では隙間の存在が、解析モデル精度に寄与するため注意が必要です。構造解析実施時にはファン形状の閉じた表面モデルを用いて実施します。

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 CFD SUPPORT社は、TCAE®の中でTCAD®というSALOMEベースのプラットフォームを開発しました。このモジュールを用いることで、遠心ファンの設計パラメータを入力すると、3次元形状データを作成することが可能です。3次元形状データはSTEPフォーマットで構築され、出力時にはSTLサーフェスで抽出します。


● D1 =   0.6● cross_2 = 0.863
● D2 = 1.100● cross_3 = 1.018
● blade_radius = 0.5● cross_4 = 1.201
● blade_thickness = 0.01● k1_radius = 0.680
● number_of_blades = 10● k2_radius = 0.802
● blade_angle =   math.radians(29.0)● k3_radius = 0.946
● b2 = 0.3b1 = 0.3shaft_length   = 0.04● k4_radius = 1.116
● impeller_solid_thickness =   0.010● out_length = 1.2
● spiral = True● inlet_length_1 = 0.743/2
● BS = 0.5● inlet_length_2 = 0.100
● TR = 0.05● inlet_fillet_radius = 0.077
● HV = 0.9● inlet_angle = math.radians(32)
● delta_rz = 0.138● opennes_angle = math.radians(55)
● cross_1 = 0.732● lock_length = 0.010

上記の設計パラメータを用いて、次のような遠心ファン3次元形状が構築されます。

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遠心ファン - 流体計算の前処理

 流体計算では、計算に用いるサーフェスを、様々な条件、例えば回転するサーフェスや入口、出口境界のような条件のため、複数の閉じたサーフェスに分割します。結果として各サーフェスは、様々な数のサーフェスで構成されます。この分割したサーフェスは条件毎に分割が必要ですが、計算設定、例えばメッシュサイズの個別設定、または可視化時に用いるサーフェス毎に分割することも必要です。

この遠心ファンモデルではスパイラル部、インペラ部、サクション部にてサーフェスを分割しています。

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 解析モデルのトポロジーはフレキシブルであるため、空間の数等に制限はありません。空間は閉じたサーフェスで構成され、今回のモデルでは以下の3つの領域に分割されています。

1つ目の領域は吸い込み領域、2つ目はインペラを含む回転領域、最後の領域はスパイラル領域となります。以下に断面図を示します。

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遠心ファン - 構造解析の前処理

 構造解析実施時には、遠心ファンのインペラ部品を単純な1つの閉じたSTL面として扱います。このサーフェス形状はTCAD®にて作成された3次元ソリッドデータから抽出されたサーフェスです。

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上図は既に構造解析用のメッシュが作成された状態となっており、メッシュ作成にはNetGenオープンソースを用いることが出来るTMESH®というモジュールを使用しています。


遠心ファン - 流体解析用メッシュ作成

 流体解析用の計算メッシュは、構造解析同様にオープンソースsnappyHexMeshを用いることが出来るTMESH®で作成しています。メッシュサイズの設定等は全てTCAE®のGUI画面にて設定を行います。

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 各領域に対して、まず初めにバックグラウンドメッシュとして直交メッシュが形状の周りに作成されます。このバックグラウンドメッシュのメッシュサイズは、バックグラウンドメッシュサイズとして定義されたサイズであり、比較的粗いサイズとなります。更に内部では形状特徴に合わせてメッシュが自動で細分化され、より詳細な解析モデルを構築していきます。メッシュの細分化レベルは作業者が定義することが出来るため、必要に応じてモデル規模を調整することが可能です。一般的に境界層流れを捉えるためのインフレーションメッシュが推奨されるため、そちらも設定を行います。

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遠心ファン - 構造解析用のメッシュ作成

 構造解析用の計算メッシュは、NetGenオープンソースを用いることが出来るTMESH®を用いて作成します。メッシュサイズの設定等は全てTCAE®のGUI画面で実施します。


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 完全に閉じたSTLサーフェスでは、形状の隙間を考慮した設定等が必要ないため、非常に少ないパラメータ設定でメッシュ作成が可能です。構造解析用のメッシュで最も重要なパラメータは"h Max "と "h Min "で、これはメッシュのエッジ最大および最小値を意味します。サイズ設定後、メッシュは自動で作成されます。


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遠心ファン - 流体解析設定

 流体解析はTCAE®の中にあるTCFD®というソフトウェアで実施します。流体解析の設定及び実行はParaViewベースのTCFD GUIで行います。TCFD®のソルバーはOpenFOAMオープンソースベースとなります。

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 TCFD®で設定されたプロジェクトではコンポーネントグラフという表示方法で設定を確認することが可能です。コンポーネントグラフを用いてモデルのトポロジー、つまり入口、出口、どの領域を通過し、領域と領域がどう繋がっているか等の情報を可視的に確認することが出来ます。

今回の遠心ファンモデルでは吸い込み領域の入口から入った空気はインターフェースを介してインペラ領域に入り、またインターフェースを介してスパイラル領域の出口へ流れていきます。


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遠心ファン - 構造解析設定

 構造解析設定はTCAE®の中にあるTFEA®というモジュールで実施します。設定画面はParaViewベースとなり、TFEA®のソルバーはCalculixオープンソースを使用しています。


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● Beam material: steel

● Material density: 7800 [kg/m3]

● Material structure: isotropic

● Young modulus: 2.1E11 [Pa]

● Poisson ratio: 0.3 [-]

● Fixed radius: 100 [mm]

● Finite element order: second

● FEA CPU Time: 0.02 [core.hours/point]


遠心ファン - TCAEシミュレーション

 TCAE®全体のシミュレーション実行は完全に自動化されています。ワークフロー全体を一括実行すると、バックグラウンドでプロセス全体が実行されます。各モジュールTCAD/TMESH/TCFD/TFEAが使用され、異なる流量5ケース(32/28/24/20/16 [m3/s])が実行されています。全ての流量ケースにおいて必要な評価値、例えば効率、トルク、力、力の係数、流量、圧力、速度、等はシミュレーション実行中にも評価され、また最終的な結果はHTMLレポートで自動で出力されます。


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 様々な計算結果は.csvファイルに保存され、TCFD®ではいつでも結果を出力することが可能です。保存方程式の残差、流量バランス等は計算実行中もモニタリングされています。3次元形状データはTCAD®を使用し、設計パラメータから3次元データを自動的に作成し、次にTMESH®を用いて流体、構造計算用のメッシュを作成します。TCFD®を用いて流体計算を実行し、その後、1way FSI実行のため、流体計算結果を用いて構造解析を実行します


遠心ファン - 後処理 - レポート

計算結果は自動的に出力され、独自のシミュレーションレポートが作成されます。流体計算、構造計算、いずれも以下のHTMLまたはPDFレポートに出力されます。

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遠心ファン - 後処理 - 可視化処理

 計算結果は.CSVファイルに保存され、必要に応じて追加の後処理を行うことができます。3次元結果はオープンソースの可視化ツールであるParaViewで後処理を実施します。ParaViewは流体、構造計算結果の後処理を実施するための様々なツールを提供します。


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遠心ファン - 後処理 - 積分結果

子午面平均値

 ターボ機械エンジニアにとって、結果を確認することは通常重要です。たとえば、全圧または全速度の円周方向に平均化され、子午面に投影されます。

この子午線平均投影は、穴(ブレード)を回避し、全圧(エネルギー)または速度が子午線に沿ってどのように分布するかを示します

この方法は子午面平均(Meridional Average)と呼ばれており、子午面上に評価値がどのように分布しているかを示します。


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ブレード2ブレード断面(B2B)

 B2B断面は、隣り合う羽根の間の評価値をスパン方向の特定相対位置断面で評価する手法となります。B2B断面で評価するスパン位置は相対的な位置であるため、様々な回転機械に対し、一意的な評価を行うことが可能となります。この手法を用いて、例えば前縁、後縁周りの流れ場を評価します。


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結果アニメーション

Radial Fan FEA FSI Displacement Animation GIF


まとめ

1.遠心ファンのFSIを含めた総合的なCFD・FEA解析を1つの自動化ワークフローで行う方法を紹介していました。

2.TCAEは、CFD、FEAおよびFSIエンジニアリングシミュレーションに非常に適したツールであることが示されました。